日本は世界一の高齢化先進国と言われていますがやばいのは医療費の増加です。その問題を解決するために今ある考えが注目されています。それが「バリューベース」のヘルスケアです。この考えは海外ではすでに広まっていてそれを支えているのはスタートアップです。まずはヘルスケア業界に旋風が巻き起こっているアメリカで何が起こったのかを見ていきましょう。
アメリカのヘルスケア業界で起こった2つの旋風
アメリカのヘルスケア業界で起こった旋風の立役者は、そう、彼である。Yes we canが代名詞。元アメリカ大統領オバマ大先輩である。アメリカは日本と違い国民皆保険ではないため保険に加入していない人がたーっくさんいて高額な医療費が原因で破産する人もたくさんいました。しかし、オバマケアによって2014年からすべての人が必要最低限の保険に加入することが義務となり、加入していない場合罰金が科せられるようになりました。オバマケアによってヘルスケア業界に何が起こったかというと、中小企業に向けた保険代理店の事業を行うスタートアップや、自社で保険商品を販売するスタートアップが多く生まれました。しかし、これだけでは終わりません。オバマパイセンはさらに二つの旋風を巻き起こし、さらに多くのヘルスケアスタートアップが生まれました。それは、ヘルスケアのボリュームベースからバリューベースへの移行とヘルスケアに関わるITインフラの拡大です。
ボリュームベースからバリューベースへ
ボリューム(量)からバリュー(質)へ。なんのこっちゃとおもいますが、医療費削減のため質の高い治療を低コストで受けることができるように病院を変えていこうということです。これまでアメリカの病院の治療費は治療内容や治療項目に基づいて(ボリュームベース)決められていましたが、治療コストだけでなく患者による病院での治療の評価や治療によって病気がどの程度回復したかの成果によって政府から病院へ払い戻しが行われるシステム(バリューベース)に移行していこうとしました。
つまり、治療の成果や患者の満足度を治療の報酬に反映させていこうということです。これによって、病院は患者に不必要な検査を要求しなくなったり、患者の満足度を上げようとカスタマーサービスを向上に努めたりするようになります。しかし、バリューベースに移行するために病院は、患者の通院時、さらには通院後の健康状態を測定したり、患者からの病院の評判を上げる必要が出てきました。そのニーズに応えるためさらに多くのスタートアップが生まれました。
ヘルスケアITインフラへの投資拡大
オバマケアによって保険に加入する人が増えました。しかし、それは同時に医療費の支出が増えることを意味します。そこでオバマ先輩はITインフラへの投資の拡大をすることで長期的に治療が効率化され医療費の支出を抑えられると考えました。さて具体的に何をしたかというと電子カルテの普及を促したのです。電子カルテを導入すれば病院の業務が効率化され、長期的に見れば医療費の支出が抑えられます。病院は2014年までに電子カルテを導入しないと政府の援助金が受け取れなくなるため本気になりました。もう何が起こったかお分かりですね。病院の電子カルテを導入をサポートするスタートアップが生まれたわけです。
2014年のヘルスケア業界のスタートアップの調達力の急激な伸びを見ると革命が起きたことがわかります。その後は少し調達金は減っていますが、今後もボリュームベースからバリューベースへの移行は進んでいくと考えられており、ヘルスケア業界はまだまだ注目の分野といえます。
【ヘルスケア業界】スタートアップのビジネスモデル
ヘルスケア業界のスタートアップは以下の図のように分類されます。
診断サポート
AIによって今後医療がどのように変わっていくのか皆さんも注目しているところだと思います。現在は診断や治療に際する最終判断は医者がおこなうとされ、AIは医師をサポートする形で活用されています。データマイニング1やAI、 NLP2、機械学習などの技術を使い診断のサポートや治療プランを提供したりするスタートアップはここにあたります。
(1) データマイニング= 統計学、パターン認識、人工知能等のデータ解析の技法を大量のデータに適用することで規則性や関係性を発見する技術
(2) NLP(Neuro Linguistic Programming)= セラピストの治療法を分析し誰でも同じような結果が出せるよう共通パターンを見出し、まとめられていった心理療法。
地域包括ケアシステム
現在アメリカでは疾患の有無に関わらず特定の地域の集団全員の健康を管理していこうとする地域包括ケアシステム(Population Health Management)というアプローチがあります。病気の有無に関わらず集団の健康データを収集し、そのデータから集団の中の一人一人が慢性疾患に関してどの程度リスクがあるのかを分析し、その人の病気の段階に応じた適切なケアを提供する仕組みです。病院はその集団の膨大なデータを扱わなければいけないため、このPHMをサポートしていくスタートアップも存在します。
ヘルスエンゲージメント
リモートモニタリング、治療のプランニング、デジタル機器を用いたセラピーを提供することで患者が継続的なケアに当たれるようサポートするスタートアップです。
オペレーション分析
病院のマーケティング、資材管理、経営戦略などの管理や運用の上での決定をサポートする会社です。
電子カルテ
電子カルテには個人の健康情報、予防接種の実施状況、病歴などの情報が記録されてあります。アメリカではすでに多くの医療機関でこの電子カルテが導入されています。電子カルテのシステムを開発し提供するスタートアップはここにあたります。
スタートアップの例
Tiba Health (2015, アメリカ)(ヘルスエンゲージメント)
患者の治療過程をセラピストが知るための、ウェアラブル端末、アプリ、インターフェイスを提供しています。セラピストはそれらを通して行う患者データの収集やモニタリングから患者にフィードバックを与えることができます。
紹介動画
https://www.indiegogo.com/projects/tiba-health-therapy-in-touch-with-tomorrow-medicine#/
Sophia genetics(2011, スイス)調達額:$28.75M (診断サポート)
患者のゲノム解析や医療専門家の知識を学習し、より迅速で正確な診断や治療を可能にする人工知能 (SOPHiA) を提供しています。
Narrative DX (アメリカ, 2013)調達額:$1.8M(オペレーション分析)
ボリュームベースからバリューベースの移行によって病院が患者の評判を上げることの重要性が高まりました。このNarrative DXは退院時の調査, ソーシャルメディア、ドクターレビューサイトなどから患者の病院に対するレビューを集め、患者の満足度を上げる方法を見つけ出し、病院の評判を向上させています。
まとめ
米国のヘルスケアベンチャー関連への投資額は年間5000億円規模に対して日本はその1/200程度だと言われています。医療保険制度、医療費、肥満率などにおける環境の違いが大きく影響していますが、海外のヘルスケアスタートアップは次々と日本に参入しています。
また今回は海外でのヘルスケア業界でバリューベースでの病院経営への移行が行われていることを紹介しましたが、決して他人事ではありません。将来高齢化に伴い医療費が高騰すると考えられる日本でも限られたコストで良い結果を生み出そうとするバリューベースの考え方が必要になってくると思われます。そうなった時に海外で成功経験のある会社に日本は遅れを取ってしまいます。
人命が関わるヘルスケア業界には慎重さも必要ですが規制が厳しく参入するのは難しいというイメージを持ったままではますます日本は海外に遅れをとってしまうかもしれません。
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