世界最大級の慈善基金財団であるビル&メリンダ・ゲイツ財団にて、1500人のスタッフ中、日本オフィスを除くとたった1人の日本人として世界最高難易度の問題解決に取り組み続けている馬渕俊介さんにインタビューしてきました!
記事の最後にかなり突っ込んだ質問とそれに対する馬渕さんのご回答を記載しております。誰もが気になる質問だと思います。お楽しみに!
国際開発に興味がある方、世界の問題を解決したいと思っている方、世界を舞台にして働きたいと思っている方は必見の記事です!
馬渕さんプロフィール
現在:
ビル&メリンダ・ゲイツ財団ーDeputy Director, Strategy, Planning & Management, Integrated Delivery
経歴:
2000年に東京大学教養学部文化人類学学士号取得後、JICA(現 独立行政法人国際協力機構)入構。2007年にハーバード大学ケネディスクール公共政策修士取得。マッキンゼーアンドカンパニー日本、南アフリカ支社にて就業後、ジョンズホプキンス大学にて公衆衛生修士取得。世界銀行で7年務め、その間にジョンズホプキンス大学にて公衆衛生博士号取得。現在はビル&メリンダ・ゲイツ財団でグローバルヘルス問題解決に奔走する。
それではインタビューのスタートです!
世界最大級の慈善基金財団で働く馬渕さん
ビル&メリンダ・ゲイツ財団、通称ゲイツ財団とは?
マイクロソフト設立者のビルと妻メリンダが1993年にアフリカ旅行をしていた時に、アフリカの雄大さを実感すると同時に、人々の生活の質の違いに衝撃を受けました。グローバルヘルスの分野が世界の貧困を解決するためには重要だと考え、2000年にゲイツ財団が生まれました。
ゲイツ財団は多様な分野に貢献していますが、グローバルヘルス分野が最大です。当初ビルはこの分野の中で薬やワクチンの開発に力を入れていて、開発の部隊ができました。また、世界各地にそれらの薬やワクチンをデリバリーする部隊が生まれ、後々この部隊は国のヘルスシステムを作る活動を行うことになりました。
馬渕さんのポジション
私は後者のデリバリー部隊に属しています。
世界の大きな病気にはマラリアや結核、HIVS/AIDSなどがあります。それぞれの病気ごとにチームがあり、各チームが病気撲滅のプログラムを作成しています。
病気対策やワクチン普及のプログラムは、国の医療システムに統合させないと、持続的な結果が出ないんですよね。病気撲滅プログラムを、各国のプライマリーヘルスケアシステムに統合しつつ、プライマリーヘルスケアシステムの強化を支援する活動をしています。
現在の仕事は簡単に言えば、デリバリー部局チーフストラテジーオフィサー兼チーフオペレーティングオフィサー兼チーフHRオフィサー兼チープファイナンシャルオフィサーですね。
また、専門であるヘルスシステムを強化する分野に携わるとともに、Global Financing Facilityという、ゲイツ財団などの支援で設立され、世界銀行に併設されている母子、青少年健康支援のための国際資金調達プラットフォームの取りまとめ役として活動をしています。
世界銀行からキャリアチェンジ
世界銀行
世界銀行はグローバルヘルスを含む国際開発の課題に幅広く取り組む最大級の国際機関で、良いアプローチも多くあります。国の政府にお金を貸し出して、国の経済状況によっては資金援助をします。国のプログラムとして政府が実施主体になって活動するため、国のシステム作りを直接サポートできるんです。
しかし、限界もあります。大きな官僚組織として多くの国の内政と関わるため、活動を始めるのにも、その軌道修正にも多大な時間がかかります。また、途上国政府が実施主体となるため、リスクを取ってイノベーションに投資をすることも非常に難しく、実際に私がVodacom財団との連携によるイノベーションをタンザニアで展開しようとした時も、様々な障害に直面しました。
ゲイツ財団に入団した理由
世界銀行の良さと難しさを感じていた時に、ゲイツ財団のスピード感に魅力を持ちました。
世界銀行時代にナイジェリアでポリオ撲滅プロジェクトのチームリーダーをしている時に、ゲイツ財団の方と一緒に仕事をする機会がありました。ゲイツ財団はポリオ撲滅を最優先事項の一つとしてアプローチしており、非常にダイナミックにスピード感を持って問題解決していくのを目の当たりにしました。その場の会話で数百万ドル(数億円)というお金が動くんですよね。
またGPSを使ってポリオの予防接種部隊の動きをモニターしたり、リアルタイムの予防接種データを使って問題を解決していくなど、イノベーションに溢れスピード感のある環境で働きたいなと思ったのが最大の理由ですね。
ゲイツ財団が病気撲滅プログラムから各国のプライマリーヘルスケアシステムを強化する活動に焦点を移し始めていた転換期に、世界銀行での経験が生きるポジションでの採用でした。この影響力の大きい財団の戦略シフトに貢献できれば、世界に大きいインパクトを与えられると思ったのも理由です。
また、組織のマネジメントを経営陣の一人としてやってみたいという思いがあります。世界銀行でプロジェクトベースのチームを7年間牽引してきました。ここで身につけたマネジメントの経験を活かしつつ、組織の経営を身をもって学ぶことができる環境にも魅力を感じました。
これらの理由がゲイツ財団への入団につながりました。
馬渕さんのモチベーション
世界で最も難しい問題の解決に役立っているという実感、日々難題に立ち向かえるやりがいですね。これがものすごく楽しいんです。
また、財団の中で、日本オフィスを除くと唯一の日本人として勝負する冒険心・チャレンジ精神も刺激的ですね。
使命感の強い政府のスタッフや同僚、開発パートナーなど、自分と同じく途上国開発をしている同志と仕事をする楽しさもあります。
世界トップクラスの環境で働くために必要なこと
馬渕さんのモチベーションの源泉を聞き、世界トップの環境で働くために必要な要素を執筆者のぼくなりに考えてみました。
それは、大抵の人が重圧に押しつぶされてしまう、または苦しくて逃げ出したくなるような状況でも、それらを楽しむことができることです。
馬渕さんはぼくたちが想像できないような額のお金を動かし、何十億もの人々の命を左右する仕事をしています。世界最難関の問題解決を目指すということは、裏を返せば一つの選択ミスで何億、何十億もの命を失う可能性があることを意味すると思います。その状況にありながら、それを「楽しい」と思える考え方無くしては、世界トップクラスの環境で働くことは難しいのではないかと思いました。
これからについて
一つ目は、アフリカ、ヘルスの改善に一役買うことで大きな結果を出すことです。
世界銀行時代にエボラ出血熱の対策に携わったことが自分にとって大きなインパクトでした。当時はギニア、リベリア、シエラレオネなどのアフリカの国々でエボラ出血熱が流行していたんです。国家最大の危機で、感染者数が倍増を重ね、全国民の命が危ぶまれた状況でした。
このような状況でありながら、すごい緊急感を持って取り組んだ結果、見事な逆v字回復、140万人の感染が予想された状況から、2万8千人の感染で抑え切りました。「国の機関や民間も合わせて多様なプレイヤーが危機感を持って一丸になって対策に取り組むと結果が出る」と実感しました。この学びを次にも生かしていきたいですね。
二つ目は、日本人の新しいイメージを浸透させることです。
世界で新しい産業革命が起こっている中で日本は静かですよね。一部の人を除いて危機感さえもないのでは?また、国際舞台において日本人のイメージは、ソフトで静かなって感じしかない。日本人が世界に誇れる要素はたくさんあります。自分の仕事を通じて、日本人のポテンシャルの高さを伝えたいですね。
失敗談
マッキンゼー時代、オーストラリアの鉱山での仕事ですかね。チームは鉱山についての知識が皆無でしたが、鉱山のコンサルを行うことになりました。
コンサルにとって重要なのは、短期間で使えると思われることです。2週間で最初の結果を出す必要があり、とにかくどのように結果を示せるかを考えました。しかし、プレゼンをしたものの、クライアントからは「全部知っている。」と言われ、退却の危機に陥りました。
そこで、今までのやり方が間違っていたことに気づき、「何でも知っている」自分たちを装うのではなく、知らないことを正直に伝えたうえで、「クライアントが悩んでいることや知らないこと、その中で自分たちができることを最大限にやる」ことを意識するようになり、業績が上がらない理由を突き止めるためにとことん現場に出て働きました。自分たちが出せるバリューに集中することで、結果的に業績に貢献することができました。
気になる質問…
かなり突っ込んだ質問を複数してみました。
ありますよ。5、6回くらい。そのうち2回はミーティングを私がリードして、プレゼンをしてました。
さらに質問してみました。
緊張すると思ったんですけどね…しませんでした。楽しい、ワクワクの気持ちが強いです。
大抵の人が重圧に押しつぶされてしまう、または苦しくて逃げ出したくなるような状況でも、それらを楽しむことができること
ぼくが考えたことはやはり合っていましたね。この考え方がないと、ビル・ゲイツの前でプレゼンなどできないのではないでしょうか。
そして最後にもう一押し.誰もが絶対気になる質問をしてみました。
ビル・ゲイツって?
スーパー賢いです。(以下オフレコ。衝撃でした。)
まとめ
前編はゲイツ財団で働く馬渕さんのお仕事、キャリア観についてでした。
世界トップレベルで戦うには
この記事には「大抵の人が重圧に押しつぶされてしまう、または苦しくて逃げ出したくなるような状況でも、それらを楽しむことができること」が重要だとぼくの意見を記載しました。しかし、インタビューを全て終えた後、新たに思うことがあります。世界トップクラスで働くには、修羅場を何度も乗り越えてきた経験値が最も重要なのではないのでしょうか。
馬渕さんもマッキンゼー時代のオーストラリアの鉱山に関する仕事を「辛かった」とおっしゃていました。最初からこのような状況をフルに楽しむことは、かなり難しいのではないのでしょうか。このような極限の状況を何度も打破し、経験値を得て自信が芽生え、いずれは世界トップで戦うことを「楽しい」と言える考え方が身につくのではないのでしょうか。
後編はこちらです!馬渕さんが学生、国際開発に興味がある方、そして全ての日本人に訴えかける内容です。
こちらのLinkedInに関する記事でも馬渕さんのご意見をいただきました!
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【執筆者情報】
佐藤伸介
千葉県に生を授かり、幼少期から高校まで宮城県で過ごしたのちに青森県の大学へ行く。北上し続けていたらいつの間にかシアトルにたどり着き、いまに至る。次の目的地はどこになるのでしょう。東北地方の観光を盛り上げたい。